家電をなおす会 vol.5 リモコン

元エンジニアのスーパースタッフたちと一緒に家電をいじくりまわしてみる実験的なワークショップ・家電をなおす会。

今回は、お客様が15年位前に購入した、「エアコンの付属リモコン」の修理です。「特定のスイッチが効かなくなったけど、製造終了後年数が経っているのでメーカーのサポートは受けられない。それでも、エアコン本体は異常がないのでリモコンを直したい。」とのことです。

製造終了のためメーカーサポートが受けられないエアコン付属リモコンの修理

今回は、結果として工作室では直せない制御ICの故障でしたが、同じ型式番号のリモコンがメルカリで手ごろな価格で売られていることをお知らせして、その場で購入することができました。

それでは修理の作業手順を見てみましょう

家電を分解してみると。。。

今回は分解や故障診断の様子をリモコンの構造と共にご紹介します。(少し専門的なところまで踏み込んで解説してみます。分かりにくい所は気にせず読み飛ばしていただければと思います。)

赤い矢印を押してみましたが。。。残念ながら表示は変わりません。

① 症状確認

 蓋を開けて横に並んだ2行目の「風速」,「左右方向」,「上下方向」の3つのボタンは、押しても液晶表示が変化しないことを確認しました。

ネジを外してみました!

② 分解

 まず、裏側にある電池ボックスのカバーを外して、電池ボックスの中にあるプラスのネジをドライバーで外します。

慎重にカバーを開けていきます

次に、細い板を使ってカバーを開けます。この作業は、カバーにキズが付かないように慎重に行います。

コチラがリモコンの基盤。お家でここまで開けてみることってあまりないかもしれません。

③ 構造分析

 ケースから取り出したリモコン基板です。

 まず、リモコン基板がどのような回路構成になっているのかを入念に観察します。

黄色い枠で囲んだ黒い部分が、一つのスイッチの導電性パターンです。

右側が拡大写真です。一つのスイッチパターンは、良く見ると、くねくねと曲がった1本の隙間で上からのパターンと下からのパターンに分離されています。この隙間を跨いで底面が導電性のボタンが押されて接触することでスイッチがオンになる仕組みです。隙間がくねくねと曲がっているのは、隙間の部分を長くしてスイッチ全体に分散させることにより安定したスイッチ動作をさせる仕組みです。

 次に、ピンク色の枠線内に注目してみましょう。この枠の中には、5行3列併せて15個のスイッチパターンが設けられています。これらのスイッチは、行ごとの接続(横方向)と列ごとの接続(縦方向)でマトリクス配線されています。マトリクス配線は、ICの端子の数や基板上のパターンを減らすためです。

 列ごとの配線について、右側の列を例に説明します。縦に並んだ5つのスイッチの片側は、銅のパターンでつながっています(青の矢印)。ちなみに基板は緑色の絶縁層に覆われていて、銅のパターンも緑色に見えています。緑色の絶縁層がマスクされてないため、銅のパターンと黒いスイッチパターンが接続されます(青丸で囲んだところ)。縦長の青い楕円で囲まれた部分は、上下に隣接するスイッチのパターンを接続しています。他の列についても同様です。

 行ごとの配線は、各行とも、横に並んだ3つのスイッチの黒い導電性パターンはつながっています(右側の赤い矢印側)。各行とも基板の銅パターンとスイッチパターンは接続されています(赤丸で囲んだところ)。

 このように接続された行ごとと列ごとのパターンは、写真上側にある液晶表示ガラスの下にある制御ICに接続されているものと考えられます。

 ちなみに、液晶ガラスは、黄色い矢印で示すゼブラゴムによって基板上のパターンから液晶表示ガラス上のITOパターンに接続されます。ちなみに、ゼブラとはシマウマが語源でシマウマの縞のように縦方向にのみ導通するゴムという意味です。

テスターのダイオード特性測定

④ 接続調査

 今回は、2行目の3つのスイッチが効かないので、これらの3つのスイッチパターンが連結されている2行目の下側のパターンが正常に機能していないものと考えられます。もし、これらのパターンが制御ICの所で接触不良を起こしていれば、再半田処置で修理できそうです。そこで、これら3つの連結されたスイッチパターンが、制御ICに接続されているかどうかをダイオード特性により調べました。

 ダイオード特性は、通常のテスターで測ることができます。ほとんどのデジタルテスターには、電圧、電流、抵抗の他に、写真5に黄枠で示すように、ダイオードの記号がついているモードがあります。テスターのダイオード特性の測定モードでは、微弱な電流を流した時の電圧を表示します。

 テスターのダイオード特性測定でどのようにしてICとの接続を調べるのかについて、図1を基に説明します。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 図1_ダイオート電圧測定.png
IC端子の接続テスト

ICの中には、各信号端子ごとに静電気で内部回路が壊れないようにするための保護ダイオードがついています。

 ダイオードは、矢印の先に横棒を付加したような回路記号で、矢印の方向にのみ電流を流します。この矢印の方向を順方向といいます。一般的なダイオードでは、順方向の電圧はPN接合の0.6V程度です。逆方向では、電流は流れません。

 通常の使用状態では、保護ダイオードには逆方向の電圧がかかっているので電流は流れなく、無いのと同じです。ところが静電気が信号端子に引加されて例えばプラス電源より高くなろうとすると、保護ダイオードに順方向の電圧がかかって信号端子がプラス電源より0.6V以上にならないように働きます。マイナスの静電気の場合も同様です。このように保護ダイオードは、電源のレンジより0.6V以上はみ出さないように信号端子に接続されている内部回路を保護します。

 図1の例では、テスターは、信号端子とマイナス電源の間に接続されている保護ダイオードの順電圧を測定します。このように接続確認する方法は、ICに電気的に接続されているかどうかをICに直接触れずに確認することができるので、IC自体の検査やボンディングの検査などで通常用いられています。

 今回のリモコンのスイッチの効かないパターンでのダイオード特性の測定結果は約0.8Vで、スイッチパターンは制御ICに接続されていることが確認できました。制御ICにつながっているにも関わらず、スイッチオンを検出しないということは制御IC内部の故障と判断されるため、こで修理断念となりました。制御ICはゼブラゴムで接続された液晶ガラスの下にあるため、組立時の精度を考慮して、これ以上分解しない選択をしました。

 ちなみに、ダイオード特性が約0.6Vでなく約0.8Vだったのには理由があります。それは、キーマトリクスでは、例えば行ごとに順次信号を出して検出する走査を行うのですが、複数のスイッチが同時に押された場合の走査信号間の短絡を防ぐために、走査信号の出力には通常ショットキーダイオードが挿入されています。ショットキーダイオードは、信号の電圧を極力低下させないように順電圧を小さくした特別なダイオードです。保護ダイオードの0.6Vとショットキーダイオードの0.2Vを加算した電圧が測定されていたのです。

⑤ 対応

 15年前のエアコンで、製造終了の為メーカーからリモコンを購入することができません。

最初は汎用のエアコン用新品リモコンがアマゾンなどで数百円程度で売られていることをご紹介したのですが、汎用のリモコンには、調整したい左右風向のボタンがありませんでした。

 そこで、メルカリで型式番号の同じリモコンが1500円程度で売られていることをお知らせして、その場で購入することになりました。

 後日、新品に近いリモコンが届いて、お客様にも喜んで頂けました。工作室のスタッフもお手伝いできて嬉しい気持ちになりました。

スタッフ・ちはるの考察

お気に入りで長く愛用した家電ほど、製造終了などの理由で残念ながら修理できない、なんてことになりがちな昨今。それでも、諦めずに手を動かしてみたり、違う方法を探してみることで暮らしをアップデートができるのかもしれません。今回はリモコン自体は修理できなくても、リモコンの調達方法の提案という形で、これまで通りにエアコンが使える状態になりました。 このように、修理がうまくいかなくても何がしか代替策を提案できる場合もあるので、家電で困ったことがあれば、駄目元でのご相談もお待ちしています!

次回もお楽しみに!

次回の家電をなおす会

家電をなおす会は不定期で開催しています。「壊れて動かなくなっちゃた」とか「もっと便利に使うために、こんな機能をつけたい」とか「動きが面白いから、別のものにつくり変えたい」などなどアイデアは無限大!
そういえば、お家に使っていない家電が眠っている、なんてことありませんか?

西千葉工作室に持ち込んでご自身で手を動かして修理してみると、家電の新たな活用法を見つけられるかもしれません!
次回の開催日時&お申し込みはこちらのページからご確認ください。

(今回のレポート担当:松島)